主に蝶の写真を中心にアップします。

naoggio写真日記

       久しぶりに MY FAVORITE THINGS カテゴリーの記事です。今回は私の大切なトランクの話です。
       およそ40年前、私が高校生の時だったと思います。横浜は石川町。駅前の運河に浮かぶ小屋掛けされた艀(はしけ)
      でギャラリーを営まれている方がいらっしゃいました。もともとは元町のビルにあった画廊が移転したもので、木造の
      キャビンの中は全て白いペンキで塗られていたと記憶しています。
       そのギャラリーで廊主が所持品の蚤の市のような催しをされた事があって、私も何か良いものがありそうだと思って
      覗きに行き、そして古い革製のトランクと羅針盤を買って帰ってきました。
       このトランクはコードバンのような滑らかな皮で張られていて、4本の木製のリブで補強された頑丈な作りで、大き
      さも重さもかなりのもでした。この中に羅針盤を放り込んで、いくら若いからと言って一体家までどうやって持って帰
      ってきたものか。昔の貧乏高校生がタクシーに乗るはずもないので、まあ担いで持ってきたんでしょうね。
       帰ってから部屋に戦利品を並べてためつすがめつしている内に、トランクに貼られた荷札に目が留まりました。とい
      うのも、この荷札自体煤ぼけてしまってはいるもののある程度記載事項が読み取れそうだったからです。そして早速そ
      の解読にとりかかりました。若い頃なので老眼に煩わされる事もなく、簡単なルーペでだいたいの事が読み取れました。

          内容は、
 
          1935または1955年のどちらか(はっきり読み取れません)に
          ロンドンの「ロイヤル・アルバート・ドック」から横浜に向けて送られた荷物であり
          荷主は MADAME がつく誰か(名前は判読不能でした)
          船名は  S.S.HAKUSANMARU
       
          でした。
   

       この荷札の内容にはとても興味が湧きました。ロンドンから日本へ・・・Madameを冠する人物という事は当然女性
      です。英語圏でMadame〜と呼ぶのは英米人以外の外国人(とりわけフランス人)でしょうが、このトランクの持ち主
      は一体どんな女性だったのでしょう?そして HAKUSANMARU というのはどんな船だったのでしょう?
       黄昏時が近づいた薄暗い部屋の中で、見も知らぬ船の姿や船旅の様子を想像しながら、私は大きなため息をついたも
      のです。

       さて、やがてそのラベルの事も忘れて30年ほど経った多分2003年頃、家内と横浜市内を散歩していた時に、海岸
      通りにある日本郵船の建物に「日本郵船歴史博物館」というのができているのに気がついたのです。入ってみると館内に
      は過去に活躍した数々の船の模型や写真パネルが飾られていました。それを見た瞬間、あのトランクの事が思い出され、
      「これはひょっとすると HAKUSANMARU に会えるかもしれないな」という予感のようなものが頭をよぎりました。そ
      して展示パネルの一角に飾られた貨客船「白山丸」の、写真の中の姿ととうとう対面する事ができたのです。
       今だったら「はくさんまる」と入力してクリックすればたちどころに情報が得られますが、私がトランクを入手した当
      時は当然インターネットなんてものはありませんでした。そして(推定)2003年の時点まで、私がその事を失念して
      いてネット検索しなかった事にもむしろ感謝しています。ネット検索で出合うより、博物館でばったり出合う方が遥かに
      ドラマチックですからね。
      
       そのトランク、この10年余はずっとロフトにしまい込んでいたのですが、先日久しぶりに引っ張り出してみた所残念
      な事に大切な荷札の半分近くが劣化して剥がれ落ちてしまい、一部紛失してしまっている事がわかりました。それで内容
      を覚えているうちに記事にしておこうと思いこの記事を書きました。



          
              YASHICA YE で撮影したトランク。大型スーツケースより一回りは大きいです。


150329TG3P3290200.jpg
  剥がれ落ちた荷札の一かけらがロフトの床に落ちていました。「HAKUSANMARU」と「October」の一部が読み取れます。


150329TG3P3290226.jpg
  まだトランクに残っている部分からは年号と「YOKOHAMA」 の文字が読み取れます。

  
Hakusan_Maru_NYK_Scan10019.jpgウィキペディアで拾った白山丸の写真です。


       白山丸は1923年に進水した日本郵船船籍の貨客船で、スエズ運河経由の横浜〜ロンドン航路に就航していました
      が、第二次世界大戦時には日本海軍に徴用され、砲座を設えたりして大変危険な任務を遂行したそうです。1943年
      には2度に渡って爆撃の憂き目に遭いますがなんとか持ちこたえます。ですが結局は1944年の6月4日、硫黄島西
      南海域で、米潜水艦の魚雷によって炎上沈没する運命を辿ります。この時には民間人を含む乗員の半分、324人が犠
      牲になったそうです。
       この辺りの壮絶な事情はウィキペディアにかなり詳しく書かれていますので興味のある方は検索してみて下さい。


       

       Japanese_cruiser_Haguro_at_Rabaul.jpg
            1943年11月のラバウル空襲で被爆炎上中の白山丸(右奥、同じくウィキペディアから)


       私が絵のモチーフにでもしようかと思ってお気楽な気持ちで買ってきたトランクでしたが、そのトランクををロンド
      ンから横浜へと運んでくれた白山丸は、後にこのように悲惨な最後を遂げた船だったのです。トランクを手に入れた当
      時、そんな事は思いもよりませんでした。それを知った時には戦争の悲惨さに改めて胸が塞ぎ重くなるのを禁じ得ませ
      んでした。
       ところで沈没年代がわかった事でこのトランクが海を渡ったのは1935年だという事がわかりました。1935年
      というのも調べてみると大変な年です。ヒトラーのヴェルサイユ条約破棄と再軍備宣言、イタリアのエチオピア侵攻、
      溥儀の靖国参拝、揚子江の氾濫(20万人死亡)、等々。第一次世界大戦からわずか17年しか経っていないのに、世界
      が再びその影を色濃く落とし始めた大戦への予感に鬱々としていた時代です。そんな時代にイギリスから日本へ、見知
      らぬMadam と共にこのトランクは海を渡ってきた訳です。その後どういう変遷を経てあの艀の画廊で売りに出される
      事になったのかわかりませんが、私が手に入れたのも何かの縁なのでしょう。これからはなるべく大切にしてやろうと
      思い、書斎の吊り棚の下に納まってもらう事にしました。
       そうそう、旅の出発点、ロイヤル・アルバート・ドックの事についてもふれようと思って忘れてしまいました。でも
      長くなりすぎるのでこれくらいにしておきます。もしも最後まで読んで下さった方がいらしたら深く感謝致します。


     150329TG3P3290238.jpg
          





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  1. MY FAVORITE THINGS
  2. / trackback:0
  3. / comment:4
  4. [ edit ]

  1. 2015/04/13(月) 18:19:38 |
  2. URL |
  3. ダンダラ
  4. [ edit ]
高校生の時に、このようなトランクに興味をもち購入されるなんて、私のような平凡な高校生とは一味もふた味も違っていらしたのですね。
それが今につながっているんですね。
白山丸の被爆炎上の写真に写っている巡洋艦は、妙高のようですね。
こんな写真は初めてみました。

Re: タイトルなし

  1. 2015/04/14(火) 07:49:10 |
  2. URL |
  3. naoggio
  4. [ edit ]
>ダンダラさん
コメントありがとうございます。
いえいえ、私は単に古物好きの変わり者だっただけでなんの事はないです。
それより手前の巡洋艦が妙高だとよくわかりましたね。
私は艦船には全然疎くてわからなかったのですが、
この戦艦は妙高型重巡洋艦の4番艦(同形艦全4隻)で「羽黒」という船名だそうです。
調べてみますとこの羽黒もペナン沖海戦で沈没。400名が亡くなったそうです。

  1. 2015/04/14(火) 17:24:38 |
  2. URL |
  3. BANYAN
  4. [ edit ]
味があるトランクですね。
僕には実用性が考えられないこういう物は買えませんが、絵や写真のモチーフとしては素敵ですね。
僕が仮に絵を描くとしても写真に撮影したものを参考にして手元には置かないでしょう。(笑)
こういう古い物の持ち主に思いをはせるのも楽しいですね。絵もいいでしょうが、小説になりそうです。

Re: タイトルなし

  1. 2015/04/14(火) 23:24:38 |
  2. URL |
  3. naoggio
  4. [ edit ]
>BANYAN さん
コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、味のあるトランクではありますが実用性は全くありませんね。
それどころか大きくて重くて邪魔なばかりです(笑)。
でも私にとっては大切な宝物です。
と言うのも、これまたおっしゃる通り、
これを見つめながらかつての持ち主やその人の体験した事を想像するのは本当にわくわくするからです。
誰か文才のある方が想像たくましく小説にしてくれたら最高ですね。

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青山学院の近くで、オーダー家具のショップをやっています。
このブログでは仕事と関係ない趣味の写真を中心に、日々の出来ごとや思い出など書いて行こうと思います。
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